睡眠時無呼吸症候群(SAS)の潜在患者数は?日本に約900万人と推計される理由
この記事の結論
日本では、治療が必要とされる中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の成人が約900万人いると推計されています(2019年の国際研究に基づく推計)。一方で、実際にCPAP治療を受けている人は約73万人で、潜在患者の1割に届きません。
資料によって「250万人」「500万人」「940万人」など数字が異なるのは、対象年齢・重症度の基準・診断の定義・推計した時期がそれぞれ違うためです。数字の大小だけで比べず、「何を数えた数字か」を確認することが大切です。
日本の睡眠時無呼吸症候群の潜在患者数は約900万人
現在、日本の潜在患者数として最も根拠が明確なのは「中等症以上の成人OSAが約900万人」という推計です。日本内科学会雑誌の総説(佐藤誠、2020年)は、2019年に発表された国際的な推計研究をもとに、この数字を紹介しています。
この推計のもとになったのは、Benjafieldらが2019年にLancet Respiratory Medicine誌に発表した研究です。睡眠検査で有病率を調べた16か国・17研究のデータを、統一した診断基準(米国睡眠医学会2012年基準)に換算し、各国の30〜69歳の人口に当てはめて患者数を算出しています。
ここで押さえておきたいポイントは次の3つです。
- 対象は30〜69歳の成人:子どもや70歳以上は含まれていません
- 「中等症以上」に限った数字:睡眠1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数(AHI)が15回以上の人です。軽症(AHI 5〜15未満)まで含めると、人数はさらに多くなります
- 実際に診断・治療を受けている人はごく一部:総説の時点で治療を受けている人は50万人未満、2025年時点でもCPAP治療中の人は約73万人と報告されています
つまり「約900万人」は、日本人全体の患者数ではなく、働き盛りから高齢期前の世代で、治療を検討すべき重さのOSAがある人の推計と理解するのが正確です。
なぜ「250万人」「500万人」「940万人」など患者数が違う?
SASの患者数は、同じ条件で算出された数字ではありません。インターネットや報道で見かける主な推計値を、条件ごとに整理すると次のようになります。
| 推計値 | 主な出典 | 何を数えた数字か | 読み方の注意 |
|---|---|---|---|
| 約200万〜250万人 | 済生会(2015年)、神奈川県 | 人口の2〜3%。無呼吸に加えて眠気などの症状を伴う「症候群(OSAS)」を想定した古くからの国内推計 | 症状のある人に限るため少なめ。検査技術や診断基準が変わる前の数字 |
| 約300万〜500万人 | 報道、医療情報サイト | 「男性9%・女性3%」などの有病率を人口に掛けた推計 | 元の一次資料や対象年齢が示されていないことが多く、二次情報だけで確定できない |
| 約900万人 | 日本内科学会雑誌(2020年) | 30〜69歳・中等症以上(AHI 15以上)の成人OSA。2019年の国際研究による推計 | 現時点で最も根拠が明確。軽症は含まない |
| 940万人以上 | 慶應義塾大学病院 睡眠センター、学会・企業の啓発資料 | 30〜60歳代・中等症以上の推計として紹介されることが多い | 900万人と同じ国際推計に由来すると考えられ、表記の丸め方の違い。「日本人全体」の数字ではない |
数字が食い違う主な理由は、次の4点です。
- 「症候群(SAS)」か「無呼吸(OSA)」か
「睡眠時無呼吸症候群」は本来、無呼吸に眠気などの症状が伴う状態を指します。一方、近年の大規模推計は、症状の有無を問わず検査値(AHI)で判定したOSAを数えています。症状を条件にすると人数は少なく、検査値だけで数えると多くなります。 - どの重症度から数えるか
AHI 5以上(軽症を含む)で数えるか、15以上(中等症以上)で数えるかで、人数は2倍以上変わることがあります。 - 対象年齢
「30〜69歳」に限った推計と、全人口を分母にした推計では、そもそも比べる集団が違います。 - 推計の時期と方法
2000年代以前の推計は、検査の基準や感度が現在と異なります。また、日本独自の大規模調査ではなく、体格や人種が近い国のデータを当てはめた推計もあります。
このように、どの数字も「間違い」ではなく、数えている対象が違うのです。記事やニュースで患者数を目にしたときは、「何歳の、どの重症度の人を数えた数字か」をあわせて確認するようにしてください。
睡眠時無呼吸症候群は何人に1人?
30〜60歳代に限ると、約7人に1人が中等症以上のOSAに該当すると推計されています。これは、潜在患者数(約900万〜940万人)を、日本の30〜69歳の人口(約6,000万人台)で割った割合です。
ただし、これは 日本人全体の7人に1人という意味ではありません。子どもや20歳代は有病率が低く、全人口で割ると割合は小さくなります。逆に、軽症まで含めれば割合はさらに高くなります。
また、同じ世代の中でも差があります。
- 性別:男性に多く、女性は閉経後の50〜60歳代で増える傾向があります
- 年齢:加齢とともに、のどの筋肉の張りが弱まり、有病率が上がります
- 体格・骨格:肥満はもちろん、あごが小さい・首が短いといった骨格の特徴も影響します
「7人に1人」という数字は、職場や家族の中に、気づいていない患者さんが身近にいてもおかしくないという規模感として捉えてください。
なぜSASには多くの潜在患者がいる?
約900万人のうち治療につながっている人が1割に満たない最大の理由は、本人も周囲も「病気だ」と気づきにくいことにあります。日本内科学会雑誌の総説でも、典型的なイメージ(太っていて、昼間に強い眠気がある)に当てはまらない患者さんが多いことが指摘されています。
自分では睡眠中の無呼吸に気づきにくい
無呼吸は眠っている間に起こるため、本人には自覚がありません。呼吸が止まるたびに脳は短く目を覚ましますが、その覚醒も記憶に残らないため、「ぐっすり眠れている」と感じている方も少なくありません。
気づくきっかけの多くは、家族やパートナーからの「いびきがうるさい」「息が止まっていた」という指摘です。一人暮らしや寝室が別の方は、このきっかけ自体がないため、見逃されやすくなります。また、OSAの基本症状はいびきですが、「いびきは誰でもかくもの」と軽く考えて受診に至らないケースも多く見られます。
日中の眠気がない人もいる
「昼間に眠くないから大丈夫」とは限りません。日本のOSA患者さんの約半数は、日中の眠気を自覚していないと報告されています。眠気に体が慣れてしまっている場合や、だるさ・集中力の低下・起床時の頭痛など、眠気以外の形で症状が出ている場合もあります。
肥満ではない人にもSASはある
肥満はOSAの最も重要な危険因子ですが、日本のOSA患者さんの約4割は肥満ではありません。日本人を含む東アジア人は、あごが小さく、舌が収まるスペースや気道が狭い骨格の方が多いため、太っていなくても、わずかな体重増加でも気道がふさがりやすいと考えられています。鼻づまりや寝る前の飲酒も、無呼吸を悪化させる要因です。
検査は「自宅での簡易検査」から始められる
「検査には入院が必要で大変そう」というイメージも、受診をためらう理由の一つです。実際の検査は、次の2段階で進むのが一般的です。
| 検査 | 場所 | わかること |
|---|---|---|
| 簡易睡眠検査(スクリーニング) | 自宅 | 指先や鼻につけたセンサーで、呼吸の止まり方と血中の酸素の低下を調べる |
| 終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG) | 医療機関(一晩入院) | 脳波・呼吸・心電図などを同時に記録し、無呼吸の回数や重症度、睡眠の質を詳しく評価する |
まずは自宅で簡易検査を行い、必要に応じてPSGで詳しく調べるという流れです。当院では、夜に入院して翌朝早くに退院できるPSG検査を行っており、仕事や学校を休まずに受けていただけます。
潜在患者が多いことが問題になる理由
未治療のSASを放置すると、本人の健康だけでなく、周囲の安全にも影響が及びます。睡眠中に低酸素と覚醒を繰り返すことで、主に次のようなリスクが高まります。
- 循環器の病気:高血圧、心筋梗塞などの虚血性心疾患、脳卒中(→ SASと高血圧)
- 代謝の病気:糖尿病の発症・悪化(→ SASと糖尿病)
- 事故:日中の眠気や集中力の低下による交通事故・労働災害(→ SASと交通事故)
一方で、SASにはCPAP療法という確立した治療法があり、保険診療で受けられます。治療法があるのに、900万人規模の人がその手前で取り残されていることこそが、潜在患者数の問題の本質です。合併症や治療の詳細は「SASの危険性」「SASの治療について」で解説しています。
こんな症状があればSASの検査を検討
次のうち、いびきや睡眠中の呼吸停止に加えて一つでも当てはまる場合は、睡眠の専門医療機関での検査をおすすめします。日中の眠気がなくても、肥満でなくても、SASの可能性はあります。
- 家族から、いびきや睡眠中の呼吸停止を指摘されたことがある
- 寝ても熟睡感がない、朝起きたときに頭が痛い
- 夜中に何度もトイレに起きる、のどが渇いて目が覚める
- 日中に眠気やだるさがあり、仕事に集中できない
- 運転中にヒヤリとしたことがある
- 薬を飲んでいても血圧が下がりにくい
- 最近体重が増えた、またはあごが小さい・首が短いと言われる
まとめ
- 日本の潜在患者数は、30〜69歳・中等症以上の成人OSAだけで約900万人と推計されています
- 250万人・500万人・940万人など数字が違うのは、対象年齢・重症度・診断の定義・推計時期が異なるためで、単純には比較できません
- 30〜60歳代では約7人に1人が該当すると考えられますが、日本人全体の割合ではありません
- 自覚しにくく、眠気がない人や肥満でない人も多いため、治療を受けている人は1割未満にとどまっています
いびきや呼吸停止を指摘されたことがある方は、「自分は当てはまらない」と決めつけず、まずは受診をしてみてください。
当院では、睡眠時無呼吸症候群について、専門医による診察から検査、治療まで対応しています。
症状が気になる方や、ご家族から「寝ている間に呼吸が止まっている」と指摘された方は、お気軽にご相談ください。
最適な治療が可能ですので、お悩みの方は是非ご相談下さい。
24時間WEB予約も可能です。
https://matsuzawa-cl.com/yoyaku
06-6120-3177
参考文献
- 佐藤誠. II.睡眠時無呼吸症候群(SAS)の疫学. 日本内科学会雑誌. 2020;109(6):1059-1065.
- Benjafield AV, et al. Estimation of the global prevalence and burden of obstructive sleep apnoea: a literature-based analysis. Lancet Respir Med. 2019;7(8):687-698.
- 済生会. 睡眠時無呼吸症候群(解説:上森栄和). 2015年.
- 慶應義塾大学病院. 睡眠センター.
- 神奈川県. 命に関わる、怖いいびきの話. 2025年.
- ケアネット. 睡眠時無呼吸症候群の国内の潜在患者数は940万人以上. 2025年2月26日.